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東京地方裁判所 昭和60年(行ウ)149号 判決

原告

堀商事株式会社

右代表者代表取締役

堀陽一

右訴訟代理人弁護士

田邨正義

大橋堅固

被告

農林水産大臣

羽田孜

右指定代理人

野崎守

外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和六〇年九月二六日付けでした米穀輸入不許可処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告の地位

原告は、船用品供給業(いわゆるシップチャンドラー)を営む株式会社であり、千葉県知事から食糧管理法(以下「法」という。)八条ノ三第一項の米穀の小売業の許可を得ている者である。

2  本件不許可処分

原告は、被告に対し、昭和六〇年八月二七日付けで法一一条一項により左記のとおり米穀の輸入(以下「本件輸入」という。)の許可申請をしたが、被告は、同年九月二六日付けで原告に対し右申請を許可しない旨の処分(以下「本件不許可処分」という。)をした。

(一) 種類別数量  米国加州米年間六〇〇トン

(二) 種類別単価  一トンにつき447.83米ドル

(三) 用途  右輸入米は関税法上の保税倉庫に蔵置し、その全量を本邦を通過する外航船舶(外国航路を運航する船舶)にその自用に供するものとして提供する。

(四) 輸出港  米国カリフォルニア州オークランド港

輸入港  東京港 横浜港千葉港

3  本件不許可処分の違法性

(一) 本件輸入の必要性

近時国内産米の価格は、国際価格の四倍以上にも達し、近隣諸地域、例えば韓国や台湾と比較して高価なため、わが国に停泊し、出航する外航船舶がその自用に供する米を日本で買い付けることはほとんど皆無になっている。そして、米だけにとどまらず、米と同時に買い付けるのが通常である肉、野菜などの副食品や酒、煙草などの嗜好品、船用品一般の買付高にもその影響が及び、原告の経営の根幹にも響きかねない事態となっている。

(二) 本件輸入と米穀の国内需給

法の基本目的は国内で消費される国民の食糧の確保にあるところ、本件輸入に係る加州米は、全量を外国貨物のまま保税倉庫に蔵置した後外航船舶に積み込んでしまうので、実質的には輸入には該当しないともいえるものである上、右(一)に述べたように国内産米は既に船用品としては購入されることはほとんどなくなっているのであるから、本件輸入は国内の米の需給とは無関係であり、わが国の食糧管理体制にいささかの影響も与えるものではない。したがって、法に基づく食糧管理政策上本件輸入を許可しない合理的理由はない。

(三) 加工貿易原材料の輸入との不均衡

法一一条一項は米穀輸入の許可制については政令に別段の定めがある場合を例外としているところ、法施行令一三条三号は右の例外として農林水産大臣の指定する米穀の輸入は許可を要しないものとし、これを受けて食糧管理法の施行に関する件(農林水産省告示第六七号)の八の(七)は加工貿易原材料として輸入割当てを受けて輸入する米穀を輸入の許可を要しない米穀として指定している。加工貿易原材料の輸入も本件輸入も、輸入された米穀が全量輸出されるという食糧管理政策上最も本質的な点では共通しているにもかかわらず、前者の輸入を認めながら本件輸入を認めないのは、食品加工業界とシップチャンドラー業界とを不当に差別するものであり、平等原則に違反する。

4  よって、本件不許可処分は、処分の効果とこれがもたらす原告の不利益との間の均衡を著しく失し、また、平等原則にも違反するものとして、裁量権の逸脱又は濫用にわたる違法なものであるから、原告はその取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3の(一)のうち、わが国に停泊し、出航する外航船舶がその自用に供する米を日本で買い付けることはほとんど皆無になっていることは否認し、その余の事実は知らない。同(二)は争う。同(三)のうち、加工貿易原材料として輸入割当てを受けて輸入する米穀が法に基づいて輸入の許可を要しない米穀として指定されていることは認め、その余は争う。

4  同4は争う。

三  被告の主張

1  米穀輸入許可の性質とその運用

米穀の輸入許可要件については法には何ら明定されておらず、右許可を与えるか否かの判断は、被告の政策的判断を尊重すべき自由裁量に属するところ、米は日本国民の主食として長い歴史を持つものであるから、その国民への安定的供給を確保して食生活の安定を図ることは食糧管理政策上最も重要な課題である。ところで、米はわが国の農業粗生産高の約三分の一を占める基幹作物であるが、現在年間一〇〇〇万トンの需要に対し四〇〇万トンに近い過剰生産力があるため、水田面積の三割に及ぶ生産調整を実施している実情にあり、他方、世界的にみて米の生産量に占める貿易量の比率は約四パーセントであり、しかも輸出国は米国、タイ等に限定されているため、気候不順といった原因により価格が大きく変動する傾向があって、わが国への安定的供給を依存し得るような状況にはない。そこで、米については基本的に輸入に依存することなく、国内産米で供給できるものは国内産米で賄うという自給方針が農政の基本方針として国会決議等においてもたびたび確認されている。現在輸入が許可されているのは次の極めて例外的な場合だけであり、いずれも特段の理由があるものである。

(一) 沖縄向けタイ国産もち精米

沖縄復帰後の沖縄のもち精米の価格の高騰を避け、民生の安定を図るため、沖縄復帰後の昭和四七年度以降その輸入を許可しているものであり、その数量は昭和五九年度で約二六〇〇トンである。

(二) 沖縄向けタイ国産うるち砕精米

沖縄特産の泡盛の独特の風味を出すために不可欠なものとして、沖縄復帰時の昭和四七年度以降その輸入を許可しているものであり、その数量は昭和五九年度で約九四〇〇トンである。

(三) 日本に寄港する外航船舶の乗組員に供給するためのタイ国産米(いわゆるシップチャンドラー用)

外航船舶の乗組員の相当数は、東南アジア系で、東南アジア産米を主食としており、種類、食味等を異にする国内産米はその嗜好に合わない。そこで、人道上の見地から、これら東南アジア系乗組員に主として供給することを目的として、昭和五一年度以降輸入を許可しているものであり、その数量は昭和五九年度で約四〇〇トンに限っている。

2  本件不許可処分の正当性

(一) 本件輸入の必要性の欠缺

本件輸入は、その対象が米国加州米(いわゆるカリフォルニア米)で国内産米と種類、食味等が類似しており、国内産米で十分供給可能なものである上、その目的も原告の外航船舶への売上の増大というにすぎないから、右1の(一)ないし(三)の場合のように米の自給方針の例外として輸入を認めるべき特段の理由はない。

なお、原告は、外航船舶の自用米の買付の減少が他の品目の買付高にも影響を及ぼす旨主張するが、外航船舶が米の調達を中心として船用品の購入を行っていることについては必ずしも疑問なしとせず、米の販売高の減少と他の品目の売上高の減少との因果関係は明らかではない。むしろ、海運不況、円高現象等の経済的、社会的要因があいまって、船用品全体の販売高の減少が生じていると推認するのが合理的である。

(二) 国内需給等への影響

(1) シップチャンドラーが外航船舶に供給している国内産米の数量は、少なくとも昭和五八年で二三〇〇トン、昭和五九年で二四〇〇トンに達しており、仮に本件申請を許可したとすれば、他のシップチャンドラーから同様の輸入許可申請がされた場合にも許可せざるを得ず、これらの国内産米の供給に直接影響を与えることになる。

(2) また、本件輸入を許可すれば、これを機に国際線の航空機への供給業者等から同様の輸入許可申請がされることも考えられ、この場合にも許可しなければならないから、国内産米の供給への影響はさらに大きくなる。

(3) 被告は国内の多くの農家に対して多大の困難を押して生産調整対策を実施してきているところ、本件輸入を許可すれば、米の生産者をはじめ、多数の関係者に混乱を惹起することが懸念され、被告において極めて重大な政治的、行政的責任を負いかねないこととなる。

(三) 加工貿易制度との関係

加工貿易制度は、昭和二八年に国際収支の悪化という当時の経済情勢のもとで輸出促進のための輸入政策の一つとして導入されたもので、当初から国内産米を使うことは予定されていないものであり、輸入がなければ輸出もないものである。また、法一一条一項の定める例外として制度的に輸入許可を要しないとされているものであるから、本件輸入の許可申請とは次元を異にし、比較の対象とはならない。ちなみに、加工貿易原材料として輸入された米穀の数量は、昭和五九会計年度で約三五〇〇トン、昭和六〇会計年度では約四二〇〇トンであり、輸入先はタイが大部分で、次いで米国、中華人民共和国である。

3  以上のとおり、本件輸入は、加工貿易原材料とは異なり、従来から国内産米の需要分野となっている米穀に関するもので、輸入を認めるべき特段の理由はなく、これを認めることは国内産米での自給という農政の基本方針に正面から抵触し、国内での米の需給はもとより、食糧管理政策そのものに多大の影響を与えることが懸念されるのであるから、本件不許可処分には何ら裁量権の逸脱や濫用はなく適法なものであり、原告の請求は理由がない。

四  被告の主張に対する認否

争う。

五  原告の反論

1  最近のわが国に入港する外航船舶の総数、船籍、積込船用品(以下「船用品」という。)の販売高の経緯を東京湾内各港(千葉港については木更津港を含む。)について、示したのが別表(一)であり、同表の合計の項を基に各年度ごとの一雙当たりの船用品の販売高の推移を、「計」、「日本船」及び「外国船」の別に示したのが別表(二)であり、千葉港に関係する原告(A社)と米取扱量の多い千葉船舶食料株式会社(B社)の各年度の米販売高及びその対前年度比を明らかにし、これと同表のうちの外国船一雙当たりの各年度の積込船用品の販売高及びその対前年度比と対比したのが別表(三)である。これらの表からは、入港船舶の総数には大きな変化はないが、総じて日本船が減少して外国船が増加の傾向にあるところ、外国船一雙当たりの船用品販売高は大幅な減少傾向にあり、これは米取扱量の減少と概ね比例関係にあるということができ、原告の主張に沿うものといえる。したがって、本件輸入により米の価格が国際価格に接近すれば、かなりの程度船用品全体の業績の回復が見込まれるのである。

2  全国船食連合会の調査によれば、外航船舶への国内産米の供給量は、昭和六〇年(一月から一二月)が約一八〇〇トン、昭和六一年上半期(一月から六月)が約七一〇トンとされており、わが国の米穀の生産量は昭和五九年度で約一二〇〇万トンであるから、外航船舶向供給量は、現状でも0.01ないし0.02パーセントにすぎない。前述の輸入許可を要しないとされている加工貿易原材料としての米穀や、輸入を許可されている沖縄向けのタイ米の数量との比較においても、本件輸入の許可が国内における米の需給に影響を及ぼす懸念は全くない。

3  被告は、本件輸入を許可すれば同様の輸入許可申請が国際線の航空機への供給業者にも波及するおそれがあると主張している。しかし、国際線の航空機に供給されている国内産米の数量は明らかではない上、船食と航空機の機内食とでは経済的環境が異なり、船食は米穀をそのまま手を加えないで供給するのに対し、機内食の場合は調理済み食品の一部となるにすぎず、しかも就航路線との関係で調達場所(空港)は極めて限定されており、多少の価格差があるからといって簡単に調達場所の変更はできないと思われるから、国内産米の価格の高騰が供給業者にもたらしている不利益はさほどではないと推測される。また、航空運賃の中で機内食の食材購入費が占める割合は微々たるものであるところ、各航空会社とも機内サービスや機内食の質の向上に努めていることは公知の事実であるから、いかに価格差があるとしてもあえて外国産米に切り替えることは考えられない。

4  被告は、本件輸入を許可すれば生産者をはじめ多数の関係者に混乱を惹起することが懸念されると主張しているが、仮にかかる可能性があるとしても、客観的には本件輸入が国内における米の需給にほとんど影響を及ぼさないことは既に述べたとおりであるから、一部の生産者等の情緒的な反応を理由に結論を歪めることはいわゆる他事考慮として違法である。

5  外国人が日本国外で消費する外国産の食糧は、およそ食管法の関知するところではないところ、外航船舶が外国船籍の場合には、船員もほとんど外国人で占められているので、外国船籍の外航船舶に供給する米穀の輸入を許可しない理由はない。輸入の許可に当たっては輸入米の用途を申請より更に限定して外国船籍の外航船舶に限って許可することも可能であるところ、本件不許可処分はかような限定もせずに全部不許可としたものであり、少なくともその限度では違法なことが明らかである。

6  被告は、加工貿易については輸入をやめれば輸出もないと主張しているが、加工貿易原材料は事後割当て(輸出した実績をもとに輸入枠を割り当てるものである。)を原則とするものであるから、輸入が停止しても国内産米を使用した製品の輸出が残る余地はあるのであり、その限度では国内産米の需要分野を蚕食しているのであるから、この点をもって本件輸入に係る米穀との相違点とするのは当たらない。

六  原告の反論に対する認否

争う。

米穀の輸入を認めるか否かは、その数量の多寡のみにより判断すべき性格のものではないことは、既に述べたところから明らかである。

外国船籍の外航船舶に対する米の供給のうち、外国船が自ら海外で積載した米については、法施行令一三条三項において輸入の許可を要しないとされている。これに対し、原告らシップチャンドラーは、日本国内で購入する米穀を販売するのであるから、正に国内の米の需給及び流通の問題であり、法の規制の対象となるのである。

第三  証拠〈証拠〉

理由

一請求原因1(原告の地位)、同2(本件不許可処分)の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二米穀輸入許可処分の性質

法は、一条において、国民食糧の確保及び国民経済の安定という法の目標を掲げ、わが国の主要食糧の中心を占める米穀については、右目標を達成するため米穀の管理、需給及び価格の調整並びに流通の規制につき具体的な規定を置いているが、法一一条一項の定める米穀の輸入の許可制はその一環としての規制にほかならない。そして、法は、右の許可制に関し許可の要件につき具体的な定めを置いていないが、そのことは、米穀輸入の許否の判断につき、許可権者である被告に対し法の掲げる右の目標に従ってこれをすべきことを要請しているものであり、右の目標が包括的かつ抽象的であることからすると、被告には広汎な裁量が認められているものといってよい。被告としては、右許否の判断に当たっては、右の目標の範囲内で、米穀の需給事情を初めとするわが国の食糧管理にかかわる諸般の事情を考慮に入れるべきものであり、裁判所としては、被告のした右許否の判断が右の目標に背馳するなどその与えられた裁量の権限の範囲を超え又はその濫用があったと認められる場合に初めてこれを違法と判断すべきものである。そこで以下、本件許可処分に、被告の裁量権の逸脱又は濫用にわたるところがあるかどうかを検討する。

三本件輸入の必要性の有無

原告代表者尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、東京湾内各港(千葉港については木更津港を含む。以下同じ。)に昭和五八年から昭和六一年までに入港した外航船舶の総数、船籍(日本船、外国船の別)、船用品販売高の経緯は別表(一)のとおりであり、同表の合計の項を基に右の各年度ごとの一隻当たりの船用品の販売高の推移を、「計」、「日本船」及び「外国船」の別に示すと別表(二)のとおりとなり、千葉港に関係する原告(A社)と米取扱量の多い千葉船舶食料株式会社(B社)の右の各年度の米販売高及びその対前年度比を明らかにし、これと別表(二)のうちの外国船一隻当たりの右の各年度の船用品の販売高及びその対前年度比と対比すると、別表(三)のとおりとなることが認められる。

そして、別表(一)、(二)からは、入港船舶の総数には大きな変化がないが、総じて日本船が減少して外国船が増加の傾向にあり、東京湾内各港全体としての外国船一隻当たりの船用品の販売高はかなりの減少傾向にあることが認められ、別表(三)からは、原告(A社)及び千葉船舶食料株式会社(B社)の米販売高の合計と東京湾内各港全体としての外国船一隻当たりの船用品の販売高とに関する限り、米販売高と船用品の販売高とは概ね比例して減少している関係にあることが認められる。また、〈証拠〉を総合すれば、近年、米穀を含む船用品の売上高が年を追って減少の傾向にあり、また、国内産米の価格は、米国加州米の三倍ないし四倍にも達していることが認められる。

しかし、原告代表者尋問の結果によれば、原告による船舶に対する船用品供給業務は、そのほとんどが千葉港において行われていること、及び千葉船舶食料株式会社は日本船のみに米の供給を行っていることが認められるのであるから、別表(三)のように、外国船に米の供給を行わない千葉船舶食料株式会社の米販売高を原告のそれと合計して、これと、千葉港以外の港を含めた東京湾内各港全体としての外国船一隻当たりの船用品の販売高とを対比することは当を得ているとはいえず、いま試みに、別表(一)及び別表(三)を基に、昭和五八年から昭和六一年までの、原告の販売高及び前年比と、千葉港における外国船一隻当たりの船用品の販売高及び前年比とを算出し、これを対比すると、別表(四)のとおりとなり、その間の比例関係は失われるに至るのみならず、原告ら船用品供給業者が外航船舶に対して供給している船用品全体あるいは船用食糧の売上高中に占める米穀の売上高の割合やその推移を的確に把握し得る証拠はなく、右に認定した事実関係のみでは、原告ら船用品供給業者の船用品の売上高全体の減少の原因が、ひとり国内産米の価格の高騰による米穀の売上高の減少に起因すると推認するには足りない。むしろ、右の各証言及び原告代表者尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、船用品全体の売上高の減少は、外国船籍船の増加による日本人船員の減少と外国人船員の増加、海運合理化の徹底に伴う船員数の減少等の事情を背景として、近年の激しい円高の進行により日本での船用品全般の調達価格が高騰したことに起因するものであり、米穀の販売高の減少も、その一場面にすぎないと考えるのが合理的である。

したがって、仮に本件輸入を認めても、原告の米穀の売上高の増加はある程度見込めるとしても、船用品全体の売上高の根本的回復にはそれほど寄与しないと思われるから、本件輸入の必要性はそれほど大きいわけではないというべきである。

四本件輸入の国内需給等への影響

本件輸入を認めれば、原告の同業者からも同様な許可申請がされることは容易に予測されることであるところ、弁論の全趣旨によれば、外航船舶に供給されている国内産米の数量は、少なくとも昭和五八年度で二三〇〇トン、昭和五九年度で二四〇〇トンに達することが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。これに対し、成立に争いがない乙第二号証によれば、わが国の米の生産量は、豊作であった昭和五九年度で約一二〇〇万トンと認められるから、右の外航船舶に供給されている数量は、全体に対する比率からすれば小量といって差し支えないが、一年度に二千数百トンという右の数量は、それ自体としてはかなりの数量であり、それだけの国内産米の需要が減少するとすれば、それを当然に軽視することができるとはいえない。

さらに、量的な問題はともかく、〈証拠〉を総合すれば、被告は、膨大な過剰生産力を有する米穀の生産調整に苦慮していることもあって、かねてから国内で供給できるものは国内産米で自給するということを農政の基本方針としていることが認められるところ、そのさなかに現在国内産米の需要分野となっているところに輸入を認めることは、右の基本方針について生産者に疑念を抱かせることになり、被告の政治的、行政的責任が問題とされないとはいえない。そして、この点は、法に基づき食糧管理政策を円滑に遂行しなければならない被告にとって、輸入許可に当たっても配慮することが許される事柄であり、これを被告が配慮したからといって他事考慮とするには当たらない。

五加工貿易原材料の輸入との均衡

加工貿易原材料として輸入割当てを受けて輸入する米穀が、法に基づいて輸入の許可を要しない米穀として指定されていることは当事者間に争いがない。そして、加工貿易原材料の輸入と本件輸入とでは、輸入された米穀が、形を変えるかどうかの違いはあるものの、結局は輸出されて国内の需給とは直接に関わらないという点においては、類似するものであるといえる。しかし、弁論の全趣旨によれば、加工貿易制度は、昭和二八年に国際収支の悪化という当時の経済情勢のもとで輸出促進のための政策の一つとして導入されたもので、当初から米穀の輸入が一体として右制度の中に組み入れられていたものであり、そこでは国内産米の需要は予定されていないものであることが認められる。したがって、現に国内産米の需要分野となっているところに新たに輸入を認めることになる本件輸入とは沿革や背景事情を異にし、加工貿易原材料としての米穀の輸入に許可を要しないからといって、本件処分が直ちに平等原則に違背するものということはできない。

六以上によると、被告が本件不許可処分に当たり、本件輸入につき輸入を認めるべき必要性をさほど重視せず、輸入を認めた場合の国内産米の需給等への影響をかなり考慮に入れ、また、加工貿易原材料の輸入との均衡を配慮し得ないなどと判断して、本件不許可処分をしたとしても、法の掲げる前記目標に背馳するものではないことは明らかであり、そこに、裁量権の逸脱、濫用があるとは到底いい難い。

七よって、原告の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官鈴木康之 裁判官石原直樹 裁判官佐藤道明)

別表(一)

東京湾内の入港船舶及び積込船用品の経緯

年別区分

昭和58年

昭和59年

昭和60年

昭和61年

積込船

用品

入港

船舶

積込船

用品

入港

船舶

積込船

用品

入港

船舶

積込船

用品

入港

船舶

港名

国籍

横浜港

日本

百万円

3,885

2,274

百万円

3,459

1,916

百万円

2,785

1,716

百万円

2,094

1,497

外国

12,004

8,480

9,707

8,774

9,008

9,351

6,570

8,735

15,889

10,754

13,166

10,690

11,793

11,067

8,664

10,232

川崎港

日本

694

718

678

665

645

623

434

578

外国

1,212

1,458

1,658

1,571

1,530

1,700

1,187

1,729

1,906

2,176

2,336

2,236

2,175

2,323

1,621

2,307

横須賀港

日本

2,381

165

2,343

187

2,917

226

2,406

204

外国

798

227

1,601

245

899

305

569

257

3,179

392

3,944

432

3,816

531

2,975

461

千葉港

日本

1,116

905

885

975

994

887

1,088

873

外国

2,933

2,427

2,958

3,299

2,896

3,394

3,055

3,547

4,049

3,332

3,843

4,274

3,890

4,281

4,143

4,420

東京港

日本

1,961

1,282

2,054

1,230

2,230

1,383

2,444

1,313

外国

4,254

2,818

1,588

2,766

1,452

2,888

1,261

3,015

6,215

4,100

3,642

3,996

3,682

4,271

3,705

4,328

合計

日本

10,037

5,344

9,419

4,973

9,571

4,835

8,466

4,465

外国

21,201

15,410

17,512

16,655

15,785

17,638

12,642

17,283

31,238

20,754

26,931

21,628

25,356

22,473

21,108

21,748

別表(二)

東京湾内の入港船舶の一隻当たりの積込船用品の販売高

日本船

外国船

昭五八

一、五〇五千円

(100)

一、八七八千円

(100)

一、三七五千円

(100)

昭五九

一、二四五 〃

(82.7)

一、八九四 〃

(100.8)

一、〇五一 〃

(76.4)

昭六〇

一、一二八 〃

(74.9)

一、九七九 〃

(106.5)

八九四 〃

(65.0)

昭六一

九七〇 〃

(64.4)

一、八九六 〃

(100.9)

七三一 〃

(53.1)

別表(三)

千葉港における特定業者の米販売高

*括弧内の数字は対前年比(パーセント)を表わす。

A社(キロ)

B社(キロ)

計 (キロ)

外国船一隻当り

船用品販売高

(千円)

昭五八

一三、八一七

四四、四九三

五八、三一〇

(―)

一、三七五

(―)

昭五九

七、四六三

三四、二八五

四一、七四八

(71.6)

一、〇五一

(76.4)

昭六〇

七、一二六

二七、三八〇

三四、五〇六

(82.6)

八九四

(85.1)

昭六一

一、七五三

二三、一五〇

二四、九〇三

(72.2)

七三一

(81.8)

別表(四)

原告の米販売高

*括弧内の数字は対前年比(パーセント)を表わす。

原告の米販売高 (キロ)

千葉港の外国船一隻

当たり船用品販売高

(千円)

昭和五八

一三、八一七

一、二〇八

昭和五九

七、四六三

(54.0)

八九七

(74.2)

昭和六〇

七、一二六

(95.5)

八五三

(95.1)

昭和六一

一、七五三

(24.6)

八六一

(100.9)

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